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狙われる有権者たち、デジタル洗脳の恐怖 「操られる民主主義」の著者に聞く(後編)

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日経ビジネスONLINE  2018109日 伏見香名子
 

狙われる有権者たち、デジタル洗脳の恐怖
「操られる民主主義」の著者、ジェイミー・バートレット氏に聞く(後編)
 
――日本では個人データの流出がここまでの弊害をもたらすとはまだ広く知られていませんし、直接政治的な影響も受けていないため、危機感が高いとは言えません。
 
バートレット氏:世界情勢がどんなに変わり、いかに危険な状況にあるかは明白でしょう。どんな民主主義国家であっても、自分たちには関係ないと思う人たちは、自分たちを騙しているに過ぎません。まさかこんなことが米英や欧州各国で起こるとは思われていませんでしたし、皆、自分に火の粉が降りかかるまで「自分たちは大丈夫だ」と思っているのです。
 
バートレット氏:同じ広告を数百万人に流すテレビ広告よりも、一人ひとりに数百万の異なる広告を流すことの方が、一般的に有効になっていきます。人々が不安を感じている時など、最適なタイミングで働きかければ、当然より良い結果が出るでしょう。
政治家は、格好のターゲット・有権者を、最適な状態とタイミングで捉えるチャンスを得られるようになる、ということです。
 
 数千人、あるいは数万人の有権者を取り込むことができれば、僅差の選挙の場合、それは大きな意味を持ちます。政治家による市民との対話の形も変わり、全く新しい形の政治になるでしょう。長期的には、とても不健全だと考えます。政治家が人々の声に耳を傾け語りかけるのではなく、データを使って、人々の弱点を見極め、そこをつくという方式です
 
――こうした広告企業と、統治する側、つまり政権が手を携えてしまった場合、どんなことが起こりますか?
 
バートレット氏:企業がデータ収集するだけでも問題ですが、政府が企業と共同で行ってしまっては、一体誰が止められるというのでしょう。政府はより洗練された個々人のデータを取得することになります。
 政府の批判を許さない政権が、こうした詳細なデータを基に先手を打って、政権へのトラブルを起こす人物をはじき出したとしたら、どうなると思いますか。当局や警察が、常に全ての人を追跡、行動を把握し、何も悪いことをしていないのに、アルゴリズムが「彼らはトラブルを起こす」と判定したと言う理由で、事前に逮捕してしまったとしたら。
 
SFの世界のことのように聞こえるかもしれませんが、このままの状態で進めば、そう先の未来のことでもないでしょう。中国などでは、すでに民間企業と政府が共同で、得られる限りの市民のデータを取得しています。それはある種、犯罪を減らし、サービスをより早く提供できる、効率的な社会を作るかもしれませんし、人々はこれを歓迎するかもしれません。しかし同時に、前例のない権力を政府の手に渡すことに繋がります
 
――今後、例えば5年間で何も対策を講じなければ、どんな事が起こると思いますか?
 
バートレット氏:政治は急速に変化し、人々が5年前に不可能だと思って来たことが、既に実現し始めています。誰も、現在の政治状況を予測してはいませんでした。公開討論が、こんな悲惨な状態になり、選挙戦に関する人々の怒りや、(外国からの)介入も起きています。次の5年間には、更なる問題が巻き起こるでしょう。
 
突然民主主義が崩壊し、無政府状態になるということではなく、独裁者が現れ「全てのことが崩壊しつつあるようだ。全てを保つために、強いリーダー、強い政府が必要だ」と発信し、「この状態を打開するために、デジタル技術が必要だ」と主張する土壌を作るでしょう。新しい権威主義の波が起こります。
 
 私が恐ろしいと思うのは、5年後、もしかすると人々自身がそれを望み、その主張に票を投じるかもしれない、と言う事です。安定と利便性を、崩壊と困難よりも望むかもしれません。民主主義は人々の積極的な意思によって、消滅するかもしれません。これは1930年代、民主主義が破壊的な、わかりやすい状況で壊れたこととは違います。混乱ではなく安定を約束する強固な権威主義者たちを、人々が民主的に選ぶプロセスで起こるのです。
 
――難しいのは、規制と表現の自由のバランスかとも思います。
 
バートレット氏:唯一の正しい答えはありません。
今は、プラットフォームをそのままにしておいても大丈夫だと思いますが、当局から「コンテンツを削除せよ」と、法的な令状と共に命じられた場合、それを即座に、効率的かつ透明性を持って行わせる法律が必要です。法的に、公的な場で発言される内容について、当局がなんらかのコントロールをしなければなりません。
 
――日本では、政府の要望に応え得る広告企業も存在しますし、また、国民投票において、英国での選挙法のような、広告に関する資金投入の上限が存在しません。
 
バートレット氏:非常に危険なことだと思います。普通は、政府に市民の情報を常に収集させない、つまり、政府の力から市民を守る法律が存在します。できるとしても制限が存在するはずですし、令状など、裁判所からの法的な書類が必要です。
 
 このことは、専制政治から人々を守るため、民主主義国家においての基本であるはずです。しかし、民間企業は令状や、市民を守る法的根拠など必要としません。こうした企業が個人情報を収集した挙げ句、それを政府に渡してしまっているとすれば、政府自体が市民に対する保護もなく、情報収集できることになります。
 
 私は、人々がどれほど無防備に自分たちの情報をさらけ出して、またその情報が、どれほど政府にとって重要なのかに気づいてもいないと感じます。政府は常に、市民の情報を欲しています。初めは「人々を犯罪行為から守りたい」などという良い理由で始まり、徐々に、スピード違反をさせないとか、ゴミの分別を徹底するためだとか、政府が市民のことを知らなければならない理由が、どんどん増えていくのです。
 
やがて、政府がより中央集権的、革新的、独裁主義的になった場合、旧東ドイツのシュタージ(秘密警察)が大喜びしたであろう個人情報の山を手にすることになります。私たちは、そのことに気づきもせず、いつの間にか情報を提供してしまっているのです。
 
 自分たちの膨大な情報を通じ、ほんの一握りの企業、そして、究極的には政府に、力と支配を譲り渡してしまっているのかもしれません。物事は次第に、気づかないうちに悪化するでしょう。だからこそ、危険の存在や変化の度合いを知ることは重要です。民主主義とは、当たり前に存在するものではないのです。人間がどう共存するかという「短期的な実験」なのですから。
 
 この510年、それ以前に比べ、世界は民主的ではなくなってきています。これが、私たちが現在たどっている道筋なのです。これに気づき、何かをしなければ、20年後には民主国家がいくつ生き残っているでしょうか。恐ろしいことに、そうなってしまったが最後、もう元へは戻れないのです。
 
――日本はこれから、改憲に向けた国民投票が予想されています。現存の国民投票法で、ターゲット広告などに対応できるとは言えません。
 
バートレット氏:日本で国民投票が実施されれば、米英やその他の国で有効だったテクニックが恐らく使用され、問題にもなるでしょう。こうしたテクニックは、データ・アナリストのチームによって、世界的に提供され、共有されています。有効だと証明されれば、政治家はこれを利用するでしょう。
 同じような技術が日本の国民投票で使われ、これまでと同様の現象や論争が起きたとしても、不思議はありません。その時になって、ようやく対岸の火事ではないことに気づくかもしれませんね
 
――現状、人々は無防備ですね。
 
バートレット氏:今はそうですが、段々とやらなければならないことがわかってきています。まず、いくつか痛い思いをして、それから規制の必要性がわかるのかもしれません。
 

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