アンデス最古の金製品が出土した墓の副葬品展示室。クントゥル・ワシ博物館。
2015年6月14日(日)。
クントゥル・ワシ遺跡の発掘調査が大いに注目を集めたのは、アンデス最古の見事な細工の金製品を含む墓の発見であった。学術調査で金製品が発見された例は少なく、盗掘品ではデータの意味をなさない。
神殿の建物に付随する墓が数多くあり、イドロ神殿の墓1基、クントゥル・ワシ神殿に伴う墓は20基、コパ神殿では50基以上の墓が確認された。
クントゥル・ワシ期やコパ期前期の多くは神殿建立時の儀式的埋葬であり、墓地としての使用用途ではなかったが、コパ後期になると、幼児か女性の床下埋葬が多くなる。
墓の造成風景:想像ジオラマ。
クントゥル・ワシ期中央基壇の墓の位置図。
イドロ期(BC950~BC800)は山の文化圏に含まれていたクントゥル・ワシは、クントゥル・ワシ期(BC800~BC550)になると、北海岸のクピニスケ文化の影響が顕著になる。
クントゥル・ワシ期の建物が建設されるさいには、イドロ期の建物はすべて破壊され、埋められてしまった。
クントゥル・ワシ神殿に伴う20基の墓は、2例を除いて主構造の中央基壇の下から発見されており、墓の建設から埋葬に至る過程が分かったのは、図示された5基である。
中央のイドロ期の小基壇に長靴型の穴を開け、金製品を含む副葬品を添えた墓を4基造ったのち、さらに大きな新基壇で覆いつくしている。新たな神殿を造るさいの儀礼的埋葬と考えられている。
前列の墓4基(左から第3号墓、第2号墓、第1号墓、第4号墓)から金製品などが出土した。
後列の1基は犠牲にされた者の墓である。
前列の墓に葬られていたのは、男性が3人、女性が1人であった。頭部には朱(硫化水銀)が、撒かれていた。副葬品は海岸地方由来のものが多かった。人骨の食性分析により、海産物を多く摂取していたことが分かった。一人には潜水による病変が認められた。
つまり、被葬者はもともと海岸近くに住んでいた人物であり、海岸地方に埋葬されていたものが掘り出されて、山地のクントゥル・ワシまで運ばれ、大神殿の建立儀式として改めて埋葬されたと考えられる。
4基の埋葬時期は同時であるが、死亡した時期は様々であり、埋葬された死者を別の墓に移すという二次埋葬の慣習が認められる。
第5号墓。犠牲の墓。
人身供犠を示唆する簡素な構造の墓である。被葬者は約40歳の屈強な男性で、頭骨には殴打によって陥没した跡があり、うつぶせに穴に倒れ込んだ形で葬られている。朱は用いられていない。
第5号墓。銅製の円盤。海獣骨を用いた円盤。
海獣骨を用いた円盤は直径約10㎝。
第3号墓。金製耳飾りの墓。
竪穴の深さは2.3m、直径1.45m、墓室は1.3m×1m、高さ1.3m。
被葬者は約30歳の男性で、両耳に大きな金の耳輪をはめていた。土器は黒い鐙型壺と高坏の2点だった。
第3号墓。リング型金製耳飾り。
クントゥル・ワシ出土の金製品は、北海岸で出土しているこの時期の金製品とよく似た図像(ジャガー・ヘビ・猛禽類)と技術を示している。
基本的には、叩いて延ばす打ち出し技を用いているが、溶接や接合の技術も形成期には完成されたように見える。
第3号墓。珪孔雀石製管玉。刻線文鐙型壺。
第2号墓。五面ジャガーの金冠の墓。
竪穴の深さは2.55m、直径は1,5m。被葬者は老人の男性。頭部には厚い朱が撒かれていた。
五面ジャガーの金冠、金製耳飾り2点、金製鼻飾り2点、土器3点、石製管玉・ビーズが出土した。
第2号墓。五面ジャガーの金冠。
冠は幅48㎝、高さ13.5㎝。五面あるジャガーの顔を打ち出しにしてある。
五面ジャガーの金冠。文様書き起こし。
冠の中央には、口を開けて牙を剥いたジャガーの正面向きの顔があり、その左右には同じ顔が上下逆さまに配されていた。両端には左と右の横顔があった。
このジャガーの眼はいずれも丸く表現されている。
第2号墓。金製耳飾り。
2枚の横顔ジャガーの板状耳飾り。縦18㎝、幅9,5㎝。上端の中央にひとつ小さな孔をあけている。
金製耳飾り。文様書き起こし。
2枚の耳飾りには左右対称の図像が打ち出されていた。大きな牙が強調されたジャガーの横顔が二つ繋がっている図で、眼は四角に表現されている。
第2号墓。金製鼻飾り。
縦横約20㎝。H字の形をし、全面にジャガー的な顔をデザイン化した文様を打ち出している。H字の横棒には紐を通すための小さな孔が二つ開いており、鼻から吊るして口元を覆う用途。
金製鼻飾り。文様書き起こし。
上部に丸い眼のジャガーを配し、下半分には、右眼の輪郭が四角、左眼はヘビが取り巻くジャガーの顏が表現されていた。
2号墓。金製鼻飾り。
縦横約20㎝。「双子とジャガー」の像ともよばれる。
製鼻飾り。文様書き起こし。
正面に牙を剥いた大きなジャガーの顏があり、左右に四肢が伸びた形になっている。その前足は鋭い爪を立てて人間の首のあたりを掴んでいる。