2017年10月6日（金）。
九族広場で11時30分から民族舞踊の公演があるので、タイヤル族建築区から上部のアミ族・タオ族建築地区に15分ほどかけて登った。まだ、時間の余裕があったので、しばらくアミ族の建築を見学することにした。
九族広場には建物と広場があり、アミ族・タオ族が海浜に住む部族なので池が半周ほど設けられている。
アミ族は台湾最大の原住民族で、主に台湾東岸の花蓮、台東の平地に約17万人余りが住んでいる。伝統的なアミ族は典型的な母系社会であるが、公的な物事と重要な祭典は全て男性が中心になって行われる。また、男性の年齢によって階級があり、厳密な集落組織が形成されている。
アミ族の建築は漢族と日本の影響を受けて、土角(とうかつ、日干し煉瓦)造などの台湾式住居や日本式木造住居もみられる。
基本平面としては、北部地方は単室平入り、南部地方は複室妻入りが多い。
太巴塱社（タバロン社）は現在の台東線光復駅東3㎞の地点、現在名で花蓮県光復郷北富村富田に所在し、千々岩助太郎が調査した時点では、戸数474戸、人口3334人であった。
タバロンの名はアミ語で白い蟹を意味する「アバロン」から来ている。集落のある場所には昔はたくさんの白い蟹がいたと言われ、また、タバロンの人々は自らを太陽の子と称している。
平入で入口は東側に設けられ、内側へ開く両開き板戸があって、板戸には人像が彫刻してある。南側妻壁および西側面にも入口が設けられている。壁は竹と茅で造られ、正面のみ板張りである。屋根は切妻茅葺である。
この建物は、アミ族の住居の性質を持つとともに、シャーマンである巫覡（ふげき）・巫女のカキタアン家の住居として部落の祖霊を祀る儀式に使用された祖祠としての特異性をもち、1935年に総督府により史跡に指定された。
カキタアン家の家譜は古く、先祖はチラガサン山に降臨して、シラクサカイを経て、タバロンに蕃社を建設した。
カキタアン家は集落の信仰と祭祀の中心的存在で、首狩儀式を執り行い、宗教と政治経済の中心であった。現在は、社会的経済的に没落してしまったが、かつて集落の土地を管理すると共に、集落の福祉を提供して、集落に貧困者や孤児や寡婦がいれば、カキタアン家がその世話や養育の責任を負っていた。
この建物には45代目のクリユウ・サウマが1929年に死没するまで住んだが、その後、死病者が相次いだため廃屋とされ、学祖財団の所有となった。
1940 年9 月末の台風によって倒壊したが、学租財団の依頼を受けて千々岩助太郎の実測図面を基に1942年2 月に復原した。その後、1958年に台風のため倒壊した。柱などの残材は中央研究院が保存した。
タバロン社の住民の陳情により、残材が返還され、カキタアンは2006年1月に現地において再建された。カキタアンの第59代の後継者Tipus Saumah（女性、58代は母）が現地で案内をしているという。
北部アミ族の建築様式をとり、単室で主要な入口は一つである。アミ族は母系社会で複数世代が同居する。寝場所は広くて、重要なスペースとなっている。寝所は籐床で張られ、家族全員が寝る場所となっている。炉はその両側にある。
天井は通常のアミ族の住居に比べて高い。
左側の壁の戸口には二つの鏡板がある。柱を装飾する幾何学文様はミクロポリネシア様式である。
屋内は全部床が張られ、床高は45㎝、北側一部は板敷き、他は籐張りである。
学者がアミ族に関する文献を渉猟したところ、タバロンのカキタアン家屋の柱に刻まれた図案だけがタバロン集落の起源を伝えていることがわかった。柱に神話を描いた図案には、光を放つ少女、大洪水、兄妹婚、シャーマン、父殺しの兄弟などがあり、タバロン族の起源を語るものであった。
粟を作っていたが、日本統治後は稲作を始めた。杵臼で穀類を粉砕し、ケーキを作っていた。
足踏みのすりこぎを使うこともあった。
アミ族太巴塱社（タバロン社）祖祠。入口下屋。（千々岩1960）。