Quantcast
Channel: いちご畑よ永遠に
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1170

メモ 若い世代中心に広がる「民主主義」不信 日経ビジネスオンライン 上野 泰也

$
0
0
日経ビジネスオンライン 上野泰也 2018424日(火)
 
若い世代中心に広がる「民主主義」不信
 
正しいのは中国なのか?
 
もう数年前のことになるが、同じセクションに属している中国人の若手女性社員から次のようなダイレクトな質問を突然受けた筆者は、日本とは大きく異なる環境の中で生まれ育つ中で根付いた認識(というよりも感覚)の違いのあまりの大きさに、はっとさせられた。
 
「民主主義は、本当に良い制度なのですか?」
 
「日本では選挙をする民主主義の政治ですが、これが本当に良い制度なのですか?」
 
 筆者の会社でもう20年以上も続けている、早朝の新聞各紙チェックのルーティンワークを若手社員数人としていた時の出来事である。学校教育で日本の政治制度や憲法を学ぶ中で、少なくとも筆者くらいの世代の多くの日本人にとっては、西欧型の民主主義という政治制度はいまさら疑うまでもないベストの選択であり、国民が主権者として政治の意思決定に能動的に参加できるという点で一党独裁などよりも優れているという位置付けではないだろうか。
 
 だが、そうした教育を受けてきていない国の人の目には、日本の実情を見ていると、素朴な疑問が浮かんできてしまうようである。人口減・少子高齢化を克服することができないまま「地盤沈下」を続けている地方経済の状況。閣僚を含む政治家に相次いで浮上するスキャンダル。無党派層が大きく動くといった「風」でも吹かない限りマスコミ各社による事前の情勢分析通りになるケースが大半で、一種のルーティンのようにしか見えない選挙。いわゆる「開発独裁」の方が、指導者層さえ優秀であれば、意思決定が早く、経済成長に有利ではないかという見方をする人が出てきやすい。
 
 また、そうした西欧型の民主主義とは異なる道を歩んできている中国のやり方こそが正しいという教育やキャンペーンが、経済が急速に発展して豊かになった中国の人々の間では素直に浸透しやすいという事情もあるだろう。
 
 上記の質問を受けた頃には、中国経済が成熟して低成長に移行するとともに、中国の人々の関心事が経済成長(ありていに言えばお金もうけ)から政治の民主化へと徐々に向かい、そのスピードやプロセスは予想が難しいものの、中国の政治制度は民主主義の要素を増していくのではないかと、筆者は考えていた。
 
 しかしその後、日本の若者の考え方やライフスタイルが自分のような世代とは大きく異なることに気付いた筆者は、「これまでと違う日本」が現在の20代以下を中心に形成されつつあるという見方を徐々に強めている。そしてそうした一種の構造変化は、民主主義という日本の政治制度についての基本認識でも、徐々に表面化しつつある
 
41日付の朝日新聞GLOBEに、「政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください」と題したコラムが掲載された。興味深い部分を以下で引用したい。
 
 
 「3年生の女子学生(21)の目には、今の日本の政治がもどかしく映るという。『政党同士が明らかに敵対し、国会ではずっと同じ問題について、相手の悪いところを探り出し、おとしめることばかり考えているように見える』」
 
 「かといって、彼女たちは、選挙を通じて自分たちの代表者を選ぶ代表民主制を全否定しているわけではない。昨秋の総選挙で初めて投票した2年生の女子学生(20)は、『これが政治参加なんだと実感した。結果を見て、自分が多数派と分かったら、安心した』」
 
 「多数派になっての安心感……。私は今までに感じたことのない感覚だ。打ち解けてきたところで、私の抱える疑問をぶつけてみた。少数派って、どう思う?」
 
 「『選挙で票をいちばん集めた政党が国の代表になる。民主主義とはそういうもの。それは受け入れなくてはいけないと思います』と、3年生の女子学生」
 
 「つまり、多数派が少数派を顧みない政策を打ち出しても、少数派が文句をつけるのはおかしい、と?」
 
 「『そういう考えをする人の方が独善的だという気がします。私はたとえ、自分が納得いかない結果でも受け入れます。ああ、今(の民意)はこれなんだ、と』」
 
 「多数派の中にいれば(きつく言うと埋没していれば)居心地がよい」といった感覚が、いまの若い世代の間では、非常に強いようである。就職活動をしている学生の服装がほぼ完全に画一化されている点に、そうした意識の根強さを見出している専門家もいる。
 
 また、中国と日本の双方で生活した経験がある人が、比較してみて中国の政治制度の方に軍配を上げているケースもある。日経ビジネスは49日号に小平和良・上海支局長執筆のコラム「若者も習終身制に賛成する理由」を掲載した。そこからも関連する部分を引用したい。
 
 「A君は気負った様子もなく、ごく自然に自分の考えを口にした。習近平氏が国家主席を終身で続けられるようになったことについて質問した時の出来事だ。『強いリーダーがずっと続けるのはいいことだと思う。能力のない人が上に立つよりいい』」
 
 「筆者は彼の言葉に大きなショックを受けた。20代のA君は中国と日本の双方で教育を受けた。現在は中国で働いているが、民主主義国家・日本を肌感覚で知る若者である」
 
 「筆者は、彼なら『個人崇拝が強まるようで不気味ですね』『統制が厳しくなって怖いですね』といった回答をすると思い込んでいたのかもしれない。日本をよく知るA君から想定外の答えが返ってきて動揺した」
 
 「A君がこう考える最も大きな理由は、民主主義を掲げる先進国の経済が停滞する一方で、中国が目覚ましい経済発展を遂げてきた点にあるだろう」
 
 「米国は3月下旬、鉄鋼やアルミの輸入制限に加え、知的財産権の侵害を理由に対中制裁を発動すると公表し、“貿易戦争”の口火を切った。自由・民主主義が最良と信じる米国と、先進国とは異なるモデルでその鼻を明かそうとする中国。こうした図式で考える人たちが双方の政府にいるならば、冷戦期と同様のイデオロギー論争を引き起こし、貿易戦争は思った以上に深刻になるかもしれない」
 
さらに、若い世代に限らず、日本人全体で見ても、日本の政治制度や政治家、さらには不祥事が最近目立つ官僚に対する信頼感が意外に低くなっていることを示す、筆者にとっては実に衝撃的な世論調査の数字が出てきている。
 
日本の政治の仕組みを56%が「信頼していない」
 
 読売新聞は329日朝刊に、同紙と早稲田大学が共同で実施した世論調査の結果を掲載した。全国の有権者から無作為に3000人を抽出し、123日に調査票を郵送して228日までに返送された1822人の回答を集計したものである。
 
 それによると、日本の政治の仕組み(=日本国憲法で定められた民主主義に基づく政治制度)を「大いに信頼している」という回答は2%に留まり、「多少は信頼している」の40%を加えても計42%で、半分に届かなかった。これに対し、「あまり信頼していない」が47%、「全く信頼していない」が9%で、計56%が「信頼していない」派である<図表1>。
 
 また、政党については「信頼している」計39%に対し、「信頼していない」が計60%。政治家については「信頼している」計27%に対し、「信頼していない」が計73%。官僚については「信頼している」計29%に対し、「信頼していない」が計70%になった。日本の政治家や官僚に対する不信感が、財務省による学校法人への国有地売却を巡るスキャンダルなどもおそらく影響して、足元でかなり大きくなっていることがわかる。若い世代で特にそうした不信感が強くなっており、1839歳では政党を「信頼していない」が計70%、政治家を「信頼していない」が計83%に達した。
 
 上記の世論調査が実施された12月から、事態はさらに悪化している。現実の出来事に根差した政治家・官僚不信の高まりを早い段階で沈静化させることができなければ、日本の民主主義制度そのものへの不信感を抱く向きが、上記の調査実施時点の56%からこの先さらに増えていく恐れがある。
 
 むろん、日本の未来を決めるのは今の若い世代であり、筆者が含まれる古い世代は徐々に退出していく世代にすぎないわけなのだが、長い歴史の中で多くの人々の苦労の結晶として出来上がった民主主義に基づく政治制度が、そう簡単に不信感を浴びて捨て去られてしまってよいものではないだろうと、筆者はどうしても考えてしまうのである。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1170

Trending Articles