川西市郷土館。旧平安邸。国登録有形文化財。兵庫県川西市下財町。平成26年6月4日(水)。川西市郷土館は、多田銀銅山の銅精錬所を営んでいた平安家の邸宅「旧平安邸」を中心施設として、精錬所跡の広大な敷地内に、「旧平安邸」のほか、西洋館の「旧平賀邸」、現代建築の美術館「ミューゼレスポアール」、洋館風の「アトリエ平通」や製錬所跡遺構が点在する。
旧平安邸は日本庭園の中庭を取り囲むように主屋、離れ座敷、浴室、蔵4棟が配置され、その東側に米蔵・納屋が南北一列に並ぶ二重の構成をもった大きな屋敷で、全景は旧平賀邸から眺められる。
旧平安邸は、この地方の伝統的民家の特徴と、明治以降広まった数寄屋風の造り、そして技術的な革新と近代性を備えた近代和風建築の建物として、大正中後期に建てられた。
玄関部分には接客用の部屋(現在の事務室)があり、接合部に金属の補強が見られるなど、近代的特徴が見受けられる。また、中庭に面した屋根を一文字瓦葺とするほか、廊下や縁側に化粧垂木を用い、床柱にも銘木を用いるなど、数寄屋風の造りがうかがる。
内部には鉱山資料展示室や一色八郎コレクション「箸の展示室」がある。
なお、平成23年のNHK 連続テレビ小説「カーネーション」のロケ地になった。
川西市郷土館。駐車場。多田銀銅山の史跡見学を終え、猪名川町から東進し、川西市郷土館付近へ来た。ナビに従って西北から近づいたが、狭い坂道に閉口した。南の空き地に駐車して、郷土館に歩いて行き、駐車場を尋ねると、東側にあるとのこと。道路脇にはミニ案内図もあるが、初めてだと、こんなところに駐車場があるのかと、また10台ほどのスペースもあるのかと驚く。
門と塀の向こう側が、郷土館の敷地で、赤い屋根の洋館はアトリエ平通という建物だった。工場跡地にミニ開発された住宅街を歩いて郷土館へ向かった。
この郷土館はたしか洋館めあてに選定しただけで、多田銀銅山関連とは予想外で、しかも郷土館というネーミングから想像する内容からして、入館料300円は高いと思ったが、意外やお得な博物館であった。
受付の女性が、中学校生徒の団体が社会実習をしていますからと言った。10数人の男女が掃除などをしているようだったが、あけすけな会話が聞こえてきて、面白かった。
旧平安邸。主屋は、土間に沿って三間が並ぶ六間取りの平面構成で、細部意匠もこの地方の伝統と考えられる。素材は桧と欅が中心で、しかも無節の厳選されたものが使われている。
旧平安邸。廊下の板は10mつなぎ目なしの松の木が使用されている。
旧平安邸。庭園。中庭を取り囲むように蔵・離れ座敷・浴室がある。釣瓶式の井戸も残されている。
旧平安邸。離れ座敷。
旧平安邸。離れ座敷。立ち蹲踞。
旧平安邸。庭園。多層石塔がある。
旧平安邸。庭園。祠、井戸もある。
旧平安邸。庭園。蹲踞と石塔。
旧平安邸。風呂場。
旧平安邸。一色八郎コレクション。箸の展示室。一色八郎氏が長年収集した箸のコレクションを展示している。収集された箸は920点に及び、日本各地の箸だけでなく、中国やモンゴルなど外国の箸にまで広がっている。
7月にモンゴル旅行を予定していたので、モンゴルの箸が気になった。現地に行っても、このような箸は見かけなかったが。
旧平安邸。一色八郎コレクション。箸の展示室。六角知能箸は1988年に開発され、子供用の矯正箸として知育発展を目的としているという。
一色氏は、手の動きと脳の発達について大きな関心をもち、手を使うことが脳の発達を促すとして箸に着眼した。
旧平安邸。鉱山資料展示室。平安製錬所で用いられた道具類や発掘調査の成果を展示している。平安家は、明治以降も銅製錬を行なっていたが、明治期と大正・昭和期の二期の精錬所があったことが分かっている。
明治期の製錬所は、現在の旧平賀家住宅の北側にあり、展示資料の吹子はこの時代のもので、近世と同様の製錬技法で操業していた。
旧平安邸。鉱山資料展示室。大正・昭和初期の製錬所は、ミューゼレスポアールの南側の位置にあった。
多田銀銅山の最盛期は安土桃山時代から江戸時代前期にかけての頃で、猪名川町銀山地区を中心に、川西市郷土館周辺の山下町下財屋敷も製錬町として栄えた。
下財屋敷北部の平安家は明治以降も製錬を行ない、大正時代には新たに近代化された製錬所を旧平安家住宅の北東側に建設し、昭和10年頃まで操業した。製錬所は溶鉱炉・真吹炉・送風機小屋・煙突からなっていた。しかし、溶鉱炉や送風機等、近代化された施設を持つとはいえ、製錬の仕上げは近世以来の真吹炉が用いられてい。当時転炉を導入した近代化製錬所はすでにあり、これに比べると伝統的な小規模製錬所であったといえる。
旧平安邸。北東隅。旧平賀家住宅、ミューゼレスポアールへと通路が続く。
川西市郷土館。銅精錬所遺構。からみ(鉱滓)捨て場。江戸時代から昭和初期までの銅精錬の鉱滓が捨てられた。旧平安邸北側、ミューゼレスポアール西側の谷地。
川西市郷土館。平安精錬所跡。大正から昭和初期。左の建物が美術館のミューゼレスポアール。左に、真吹き炉跡。奥の石碑には、当主の母堂が遺構の保存を望んだとの記載があったと記憶する。文化財保存には強い意識が必要なのは言うまでもない。
つぎは、旧平賀邸。