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ネアンデルタール人は4万年前に絶滅した 国際第四紀学連合第19回大会開催記念講演会

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平成27726日(日)14時から、名古屋市千種区の名古屋大学で開催されたネアンデルタール人に関する講演会を聴講してきた。
正式には「国際第四紀学連合第19回大会開催記念一般普及講演会 第四紀年代学、古気候学、考古学が解き明かす人類進化史の真相-ネアンデルタールの消滅とホモ・サピエンスの拡散-」というものである。入場無料、参加自由。主催は国際第四紀学連合第19回大会組織委員会、名古屋大学博物館、日本第四紀学会。
 
725日(土)には名古屋大学博物館でのスポット展示「第四紀における人類の進化と文化」を観覧した。当日で展示が終了するはずだったが、これは101日まで延長されることになった。この展示自体は大したものではなかったが、関連イベントに上記講演会が紹介されていた。名大博物館は初めての見学だったので、常設展示などを隈なく見た。金属結晶を電子顕微鏡で覗いた数十年前のビデオは面白かったが、物理化学の展示は昔の名古屋市の科学館に似た雰囲気だった。医学部資料のムラージュは天然痘などを再現して興味深かった。2階の誕生石展示の中にアフガニスタン産出のラピスラズリがあった。特別展の「関戸弥太郎と宇宙線望遠鏡」は分からないながら見学した。
 
講演会を知ったのは偶然で、安藤百福伝を読んだあと、インスタントラーメン発明記念館、大阪大学博物館と検索して、名古屋大学博物館を思い出したことからだった。
 
1315分頃、地下鉄「名古屋大学前」から地上に出ようとしたら、愛知県警の腕章を付けた係員2人に制止された。地上の道路を天皇・皇后両陛下が通るので、数分待ってほしいと言われた。自宅に帰ってニュースを見ると、赤崎記念研究館の見学であった。27日の国際第四紀学会大会の開会式に臨席されるための来名ということだった。
 
会場は名古屋大学野依記念学術交流館2F コンファレンス・ホールで、地下鉄出口から案内の係員や案内板があり、1325分頃に会場に到着した。1330分開場だったが、すでに20人ほどが座っていた。14時時点の聴衆は100人余りぐらいだっただろうか。
 
14時から名大博物館の門脇氏から10分ほど趣旨説明ののち、まず、年代学の視点で「ネアンデルタール人はいつ消滅したのか?」大森貴之氏(東京大学)の講演。
14C炭素同位体による年代測定はこの1~2年ほどで飛躍的に進歩した。水月湖を標準年代測定に利用することにより、5万年前までは確実に年代測定できる。ネアンデルタール人が最後に絶滅したとされるジブラルラタルのゴーラム洞窟は従来25千年前とされてきたが、4万年から39500年前とされた2014年にオックスフォード大学からも4万年前と発表されたが、日本の研究チームは独自の方法で遺跡成分を再測定した確定した。4万年前にネアンデルタール人の遺跡が消滅したと同時期にクロマニヨン人の遺跡が増えていった。これは気候変動のサイクルである寒冷期ハインリッヒ・イベント5の時期に相当する。

次に「最後のネアンデルタール人が遭遇した環境変動」大石龍太氏(国立極地研究所)。
北極付近の氷床の増大・減少が北半球の気候変動を引き起こしてきた。ヤンガードリアスは、最終氷期が終わり温暖化が始まった状態から急激に寒冷化に戻った現象で、現在から12900年前から11500年前にかけて北半球の高緯度で起こった。12千年前のハインリッヒ・イベント4と連動したこの寒冷期は、人類に農業化を促したとされる。
 
休憩ののち、「ネアンデルタール人の消滅と新人サピエンスの拡散」門脇誠二氏(名古屋大学)。
45千年から4万年前のヨーロッパの旧石器文化のうち、シャテルペロン文化はネアンデルタール人、オートリナシアン文化はサピエンスの文化と考えられる。オートリナシアン文化の特徴は小型の尖頭器、細石器。狩猟技術の違いがある。小型の尖頭器は投槍などの飛び道具と関連している。
従来、この頃の中近東には先行した新人類のアハマリアン文化があり。ヨーロッパのプロト・オートリナシアン文化へ伝播したとされてきた。しかし、炭素年代測定の再評価により、逆にヨーロッパの方が古いと分かった。門脇氏はシリアのユーフラテス川中流域のワディ・ハラール遺跡を調査し、ヨルダン・シナイ半島の南方アハマリアン文化と同じ石器を発見した。レバノン・シリア東部などの北方アハマリアン文化の石器は石核からの剥離が2方向で、南方型とプロト・オートリナシアン文化は単方向の剥離が共通している。
 
次に「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの環境適応力:彼らは共存できたのか」近藤康久氏(総合地球環境学研究所)。1000年周期の環境変動にネアンデルタール人は対応できなかったのではないか。回復力(レジリエンス)のわずかな違いが命運を分けた。
5万年~4万年前までの環境変動をシミュレートして、ニッチ(居住可能性)を探るフランス南西部とイベリア半島北部に居住可能性が集中している。後期にはイタリア西部が加わってくる。
旧人は夏の気温と地形、冬の気候に関連し、新人は冬と夏の気候に関連し、両者にニッチの差はほとんどない。
 
講演後、質疑応答あり。気候変動や日本人にもネアンデルタール人の遺伝子が2%ほど入っていることに関心をもつ人がいた。サピエンスはネアンデルタール人より小脳が発達しているという。1730分過ぎに閉会。
 
事前に「ネアンデルタール人の正体」赤澤威編著、2005年刊を読んだ。「ホンマでっか!?TV」に出演している脳科学者の澤口俊之氏が真面目な報告を書いている。ネアンデルタール人は体重に比して相対脳重や余剰大脳皮質面積が現生人類よりも小さく劣っている。脳は単に自分の脳をうまく操作するだけでなく、他人の脳を操作することによって遺伝子をうまく残そうとしている。言葉はコミュニケ-ションの面だけでなく、相手を操作する側面を持っている。そのために、相手の心を読む必要があり、前頭葉が関与している。ネアンデルタール人の前頭葉の体積は体重比で現代人より40%少ない。ネアンデルタール人は現代人よりも社会関係が単純なせいではネオテニー(幼児成熟)化を余り進めず、前頭葉とその機能(自我)をよく発達させなかったホモ・サピエンスである。
 
発達心理学者の内田伸子氏。ネアンデルタール人は言葉を話したか。発語器官は口腔部の空間が狭く、発声に不向きであった。気道が長すぎて、複雑な分節化した言語音の発声は困難であったろう。
洗練された石器製作から、製作プランをもてるだけの知力、とくに象徴機能を発達させていたが、ホモ・サピエンスほどでなかった。石器の形状は斉一で、対象にあわせて石器の形状を変えるという融通性はなかった。
「対人・対物システム(気質)」の違いを感じる。ネアンデルタールは「図鑑型」でモノに興味があるタイプで、クロマニヨンは「物語型」で人間関係に敏感な気質を持っているように思われる。
ネアンデルタールは愚直で自閉的で、クロマニヨンは社交的といえる。

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