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ペルー リマ ラファエル・ラルコ・エレーラ博物館 その4

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天然石と貝殻の首飾り。北海岸、南海岸。
BC13世紀半~AD8世紀。
ラファエル・ラルコ・エレーラ博物館。2015620()
黒色の斑岩の首飾り。ヘッド部分は横顔の彫像。クピスニケ文化。動物を表した首飾り。モチェ文化。クリソコラの首飾り。モチェ文化。ウミギク貝の貝殻3枚からなる首飾り。ナスカ文化。
 
天然石や貝殻で出来た首飾りは、古代アンデス社会の指導層らの装身具であり、副葬品の一部でもあった。これらの首飾りは、現在のペルー各地で採掘された斑岩(黒)、ソーダライト(青)。水晶(透明)、クリソコラ(水色)、のほかエクアドルの温暖な海から取り寄せられたウミギク貝などを素材としていた。
異郷から取り寄せられた素材で作られた装身具は、指導者らをその他民衆から区別する役割を果たしていた。このため、指導者らは交易ルートを管理下に置くことで、貴重な素材を独占的に入手した。
 
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先スペイン期の天然石首飾り。北海岸。
BC13世紀半~AD8世紀。
古代アンデスでは、早期から、クリソコラ、トルコ石、ソーダライト、ラピスラズリ、水晶、アメジストなどの天然石が貴重とされた。これらの天然石によって、首飾りや腕輪用の珠が作られたほか、銅や金などの珠と組み合わされたものもある。天然石の装身具は、貴金属や遠方から取り寄せられた貝を素材とする装身具と同様に重要なものだった。
 
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金の装身具一式。ビルー文化。
BC13世紀半~AD1世紀。
吊り状装飾付き王冠。ピューマの形状の額飾り。金の耳飾り。金の首飾り。金の延べ棒。金箔。
埋葬用具の一部で、アンデス北海岸の最古の金製品の一つである。
葬儀の一環として、遺体の口や手に金の延べ棒や薄板が置かれるケースもあった。
 
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銅製表象入り薄板・円盤。北海岸。
AD1世紀~15世紀初頭。
銅製金属紋章板および円盤。打出し・切り抜き法。モチェ文化。失蝋法。チムー文化。
神話的な象徴を表現した金属の薄板や円盤は、エリート層の衣服の吊り状装飾などに使われた。モチーフは片足立ちのネコ科動物や首狩り神など。
超自然的・神話的表現であったと同時に、それを身に着ける人物の社会的身分を示したことから非常に重要であった。
 
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金の葬儀用具一式。チムー文化。
AD14世紀~16世紀初頭。
王冠と胸当ての縁には、羽毛が表現されている。羽毛は鳥、すなわち太陽に最も近づくことのできる存在である。耳飾りには、チムーの為政者の顔が正面を向いた形で繰り返し表現されている。
一方、肩当てには為政者が斬首した首を持ち、正面を向いて立ち上がった姿が表現されている。王冠と胸当ての羽毛部分は、ネコ科動物の顔と半月状の額飾りを持つ人物が、側面を向いて行進する様子が表現されている。
 
古代アンデスの冶金技術は、チムー文化において最盛期を迎えた。本展示品は、世界中の博物館の中で、唯一存在するチムー文化の金製装身具一式である。僅かな証拠から、この装身具は泥の都市チャンチャンに埋葬された位の高い人物の装身具であったと考えられる。装身具は、為政者の最高権力と、太陽との関係を表している。
 
金と銀。
金および銀は、太陽と月、さらにその子孫である為政者の権力を表していた。
秀逸な貴金属である金および銀はアンデス世界において非常に重要とされたが、それは経済的な側面によるものではなかった。
金と銀の価値は、神々や社会的に重要な役割を担う人々の権力を象徴できる点にあった。
金は太陽のごとく、銀は月のごとく輝いた。太陽は昼を、月は夜を支配する天体であり、双方ともに子団アンデス社会の最高神であった。
金および銀は、これら二神の権力を表すと同時に、アンデス思想に根付く二元性の概念を伝えた。
 
金や銀を用いた装飾品や衣装は、政治的あるいは宗教的指導者であった為政者や神官の男女が身に着けた。これらの装飾品や衣装によって、神と同一化し、地上における神の権化となったのである。
 
象徴的な事柄を伝える役割を担う儀礼用品の製作にさいして、職人たちは次のような点に留意した。
額、鼻飾り、胸当て、冠など、それぞれの目的に応じた形態。
図像構成。表現対象のモチーフ、デザイン、人物、背景など。
材料の金属的特徴に応じて可能となる成形や仕上げの方法。
金や銀の含有率および合金プロセスによって左右される色合い。
 
金属の色は、古代アンデスにおいて非常に重要な要素であった。
金属製品の表面が持つ様々な色合いは、昼と夜あるいは移りゆく季節ごとの姿を変える太陽や月の象徴だった。
金属製品は、太陽や月のように様々な色や、明るさ暗さを合わせ持ち、時には素晴らしい輝きを放った。先スペイン期アンデスの冶金職人は、合金によって銅その他の金属を混ぜ合わせ、表面を金や銀で仕上げることで、様々な色合いを実現したほか、2種の金属からなる製品を製作した。
 
 
金が持つ真の価値。
古代アンデスにおいて、金の持つ真の価値は、王族の血統や超自然的権力を象徴する点にあった。
スペイン人征服者がペルーから持ち去った大量の金に関しては、多くの逸話が残っている。しかしながら、金属製品の多くは合金であり、中には金の含有量が非常に乏しいものも存在している。
また、高度な技術を用いて、少量の金属を薄く大きな製品に仕上げたことも判明しているが、大きな製品に含まれる貴金属の量は実際のところ僅かなものであった。
アンデスの冶金職人らは、主に銅を原料とする金属製品に、金であるかのような外観を与える技術を模索したのである。
 
先スペイン期におけるアンデス冶金技術の特徴が明らかになるにつれて、我々が今一度問いかけることは、「スペイン人征服者が持ち去ったものは何であったのか」ということである。これは、別の質問に置き換えれば、「征服されたアンデス社会が失ったものは何であったのか」ということになる。
確かなことは、スペイン人征服者らがアンデスの儀礼道具やエリートの装身具を鋳溶かして得ることのできた金や銀の量は最小限だったということである。

スペインに実際に銀をはじめとする大量の貴金属をもたらし、後の貨幣製造に結びついたのは鉱山操業であった。
略奪品である儀礼道具を鋳溶かして得られた貴金属が僅かな量にすぎなかったことは、征服者に強い喪失感をもたらした。一方、征服者が得たものに対して、制服されたアンデス社会が失ったものは、計り知れないほど大きかった。
アンデス社会は何を失ったのだろうか。
宗教的象徴や権威の抹消は、アンデス社会に生きる人々の権限とアイデンティティの大規模な喪失だった。
今日、これらの金属製品が持つ価値は何であるといえるだろうか。
美しい金属製品は、古代アンデスの世界観を今に伝える物質的証言であり、かけがえのない我々の文化遺産となっているのである。

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